一人旅で見つける、自分にとっての「心地よさ」と「好き」
日常の喧騒から離れて見つけるもの
日々の生活や仕事に追われていると、私たちはしばしば「本当は何が好きだったか」「どんな時に心地よいと感じるか」といった、自分自身の些細な感覚を見失いがちです。効率や成果を求められる中で、純粋な興味や心地よさよりも、やるべきことや求められることに意識が向きやすくなるのかもしれません。
しかし、人生を豊かに送る上で、自分が何に喜びを感じ、どんな状態が心地よいのかを知ることは、自己理解を深め、今後の生き方や働き方を考える上で大切なヒントとなります。そして、この普段見過ごしがちな自分自身の「心地よさ」や「好き」を再発見するのに、一人旅は非常に有効な手段となり得ます。
なぜ一人旅が「心地よさ」や「好き」の再発見に繋がるのか
一人旅では、他者とのペースを合わせる必要がありません。自分の心と体が求めるままに、時間を自由に使うことができます。計画通りに進めることもできますし、気が向いたら予定を変更することだって可能です。この「自由」と「余白」が、普段意識の向けられない自分自身の内側、特に感覚的な部分に意識を向けることを容易にします。
また、見知らぬ土地に身を置くことで、五感が刺激されます。普段聞き慣れない音、嗅ぎ慣れない匂い、見たことのない景色、味わったことのない食べ物。これらの新しい刺激は、凝り固まった思考を解きほぐし、感受性を高めてくれます。他者の視線を気にすることなく、純粋に「心地よい」「好きだ」と感じるものに素直に反応することができるのです。
旅の体験から見えてくる「自分にとっての心地よさ」
私自身の体験を振り返りますと、以前は一人旅というと、有名な観光地を効率よく巡ることに意識が向かいがちでした。しかし、旅を重ねるうちに、そうした「消化する」ような旅ではなく、もっと自分自身に目を向ける旅を求めるようになりました。
ある時、地方の小さな街を訪れた際、特にこれといった観光名所もなかったのですが、古い街並みを目的もなく歩いている時間がとても心地よいことに気づきました。立ち止まって路地の猫を眺めたり、古い建物の装飾に見入ったり、川のせせらぎに耳を澄ませたり。日常であれば「無駄な時間」と感じてしまいそうな、ただそこにいるだけの時間が、私にとっては深い安らぎを与えてくれました。
また別の旅では、景色の良い喫茶店で数時間、ただぼんやりと窓の外を眺めて過ごしました。普段は隙間時間があればつい仕事のメールをチェックしたり、情報収集をしてしまったりするのですが、その時は何もせず、ただ流れる雲や行き交う人々を眺めていたのです。その「何もしない」時間が、心身の緊張を解きほぐし、頭の中をクリアにしてくれるのを感じました。
さらに、食事についても気づきがありました。一人であれば、誰かに合わせる必要がありません。その時に「心から食べたい」と感じるものを選び、ゆっくりと味わうことができます。賑やかなお店でB級グルメを楽しむこともあれば、静かな料亭で繊細な味に舌鼓を打つこともありました。その一つ一つの選択が、「自分は何を求めているのか」「どんな時に満たされるのか」という問いへの小さな答えとなって返ってきたように感じます。
これらの体験から学んだのは、「心地よさ」や「好き」は、必ずしも特別な場所やイベントにあるのではなく、案外、日常の中の小さな瞬間に潜んでいる可能性があるということ、そしてそれに気づくためには、意識的に「立ち止まる」時間が必要だということです。
一人旅で「心地よさ」や「好き」を見つけるためのヒント
では、一人旅で自分にとっての「心地よさ」や「好き」をより深く見つけるためには、どのようなことを意識すれば良いのでしょうか。いくつか具体的なヒントをご紹介します。
- 計画に余白を持たせる: 事前に全てを決めすぎず、その日の気分や体調で予定を変えられる柔軟性を持たせましょう。思いがけない寄り道や、何もしない時間が、大切な気づきをもたらすことがあります。
- 五感を意識的に使う: 旅先での体験を、見るだけでなく、聞く、嗅ぐ、味わう、触れるといった五感を通して感じてみてください。心地よい音、好きな香り、美味しいと感じる味、肌で感じる風などを意識的に捉えることで、自分の感覚の傾向が見えてきます。
- 「なぜ」と自問する: ある場所に心地よさを感じたり、何かに強く惹かれたりしたら、「なぜ自分はここに惹かれるのだろう？」「この何が心地よいのだろう？」と問いかけてみましょう。その問いかけが、自分の価値観や内面への理解を深めます。
- 旅ノートをつける: 心地よいと感じた瞬間、心惹かれたもの、ふと思ったことなどを気軽に書き留めてみましょう。後で見返すと、自分の「心地よさ」や「好き」のパターンが見えてくることがあります。無理に文章にする必要はありません。単語や箇条書きでも十分です。
- 「～すべき」を手放す: 「せっかくだから有名な場所に行かねば」「これも見ておかなきゃ損だ」といった義務感から解放されてみましょう。純粋に自分が「行ってみたい」「見てみたい」と感じるものに素直に従うことで、満足感や新たな発見が得られます。
旅で見つけた自分を日常に持ち帰る
一人旅で見つけた自分にとっての「心地よさ」や「好き」は、旅を終えて日常に戻った後も、私たちの生活を彩るヒントとなります。旅先で心地よかった時間の過ごし方を日常に取り入れてみたり、旅で見つけた「好き」に関連するものを生活に取り入れてみたりすることで、日常の質を高めることができるかもしれません。
また、「どんな時に心地よいと感じるか」「何に心が満たされるか」を知ることは、今後の仕事や人間関係、時間の使い方など、様々な選択をする上での羅針盤となってくれます。一人旅での静かな内省の時間は、自分自身を深く知り、これからの人生をより自分らしく歩んでいくための、貴重な一歩となることでしょう。